われわれ芸人や役者の世界に、「板の上で死ねたら本望」という言い回しがある。
「命を懸けた高座」なんて言いかたもする。

しかし、実際に高座や舞台の上で命を落とすなんてことは、ほとんど無いと言っていいだろう。
野垂れ死にや孤独死はあっても、落語家が高座の上で死んだという話はついぞ聞いたことがない。

俺は時々、自分はつくづく安全な商売についたもんだなあと考えることがある。
落語家は、自分の命も観客の命も、危険にさらすことが無い。
(せいぜい、つまらない落語を演ってお客を退屈させる程度だ。)

一方では、人命にかかわる職業というのも世の中には沢山ある。
自分の生命や身体を損なってしまいかねない職業(高所作業員や消防士)、
相手(客)の命や健康に大きく関わる職業(医者や運転手)。
日々のプレッシャーは、大変なモノだと思う。

こういう仕事に就いている人が居てくれるおかげで社会が成り立っていることを、「俺にはとても務まらない」という畏敬の念も含め、忘れないようにしたい。

そう考えると、「板の上で死ねたら本望」なんてことを軽々しく言うのも失礼な気さえする。

ゆうべ、ある有名なプロレスラーが、リングの上で命を落とした。

プロレスをよく知らない俺がこんなことを書くのはおこがましいけれど。
心より、ご冥福をお祈りいたします。